下着は着けている物の他に、もう一組をバッグに入れました (28)

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翌日、私たちは黙り込んだまま朝食を摂りました。
私はコーヒーだけで済ませました。胸がいっぱいで何も喉を通らなかったのです。それにお腹をお掃除しているので。

シャワーを浴び、いつも以上に丁寧にお化粧をし、そして着替え・・・ベージュのブラウスに膝丈の紺のフレアスカート、ストッキングは黒にしました。華美でない清楚な格好で来て欲しいという杉山さんからの希望を聞いていたからです。
下着は着けている物の他に、もう一組をバッグに入れました。ホテルについてから、お会いする前に一度取り替えるつもりです。
それに、杉山さんへのプレゼントと私が着けなければならない物も。
除菌用のウエットティッシュと一緒に。

玄関先で、私は何時に無く自分から夫の唇を求めました。
夫は優しく私の肩を抱き止めるて『口紅が乱れるから』と、私の唇には応じませんでした。そして、そっと耳元で囁きました。
『今日は、今迄で一番綺麗な君を見せて欲しい』と。
私は黙ったまま俯いて、小さく頷きました。
『分かったわ』と言ったつもりが、声が掠れ言葉になりませんでした。いい終わった途端に、眼に涙が浮かんでしまいました。

そして、私達は家を後にしました。
他の人から見れば、極普通のありふれた仲の良い夫婦に見えたに違いありません。
これから私達が何処へ何をしに行くかなど、知るはずもなく。

菜緒子

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